アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻 アフリカ地域研究資料センター
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ローカルバスに乗って(一條洋子) July 2011 第97号

タンザニア国内にも様々あるローカル交通手段。数百キロ離れた都市間を移動するときには長距離バスを使っている。長いときには休憩を含めて7時間ほどかけて移動する。出発直後は会話の飛び交う車内も、やがて長旅を覚悟したかのように静かになる。そんななか賑やかな時間が訪れるのが、途中の停留所や立寄所だ。バスが近づくと品物を手に待ち構えていた何人もの売り子の少年やママたちが、我先にと駆け寄り、窓に届くよう商品を高くかかげ、声を張り上げて品物名と値段を連呼する。バスはたいてい数分しか停車せず、用事が済んだら容赦なく動き始める。売り手も価格をふっかけている暇などないし、買いたいものがある乗客だって真剣になる。ペットボトル入りの水や、焼きトウモロコシ、ゆで卵、ゆでラッカセイ、手作りドーナッツなどが次々と差し出され、急げ急げと窓越しに熱い売買が繰り広げられる、このアフリカ版ドライブ・スルーのひとときに、毎回ワクワクする。

もちろんバスが停まるたびに何かを買うわけではない。ある時、売り子の少年が窓際に座った私を見つけ、「China!China!」と呼びかけながら、水を買わないかとアピールしてきた。「Chinaじゃないし…」という抗議の気持ちも込めて首を振った後にぷいとしていた。が、明らかに買う気のない私に対して、途中からほとんど事務的に繰り返されるその呼びかけに、思わず噴き出した。するとそれを見ていた別の少年が、「Chinaが笑ってる!」と言いながら笑い出す。周りの売り子たちもそれに気づいて笑いが広がる。「だからChinaじゃないから…」と思いながら私も再び苦笑い。熱い売買とは違う、どこか温かい空気が窓を通して流れていく。

お隣さんとの出会いも一期一会。それこそ停車時に仕入れた食べ物を分け合えば話も弾む。小さなお孫さんを連れたお爺ちゃんと隣り合わせたときもそうだった。とは言っても私のスワヒリ語レベルはまだ序の口。ぎこちない会話だ。そのうちお爺ちゃんの向こう隣に座る青年も会話に加わったが、いつの間にか青年と私の会話はお爺ちゃんが取り次ぐかたちとなった。青年とお爺ちゃんも、お爺ちゃんと私も、同じスワヒリ語で話しているのに。この妙なルールに若干戸惑いながらも、丁寧に言葉を選びなおして伝えてくれるお爺ちゃんのお蔭で会話が続く。偶然にも目的地が一緒だったそのお爺ちゃんは、宿までタクシーに乗るという私に、「外国人には高い金額を言ってくるから、私の子どもということにして、交渉してあげる」と言ってくれた。慣れているから大丈夫!とはもちろん言わず、ご厚意に心から甘えた。

ローカルバスのこうしたひとときは、その日の旅の疲れを癒してくれ、これから調査というときにはパワーすら与えてくれる。その国の人びとの懸命さや活気、笑い、優しさ、好奇心に触れられるローカル交通手段の利用は、調査の際の楽しみのひとつでもある。

※『アジア・アフリカ地域研究情報マガジン』July 2011 第97号より転載。

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