アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻 アフリカ地域研究資料センター
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内臓占い(山森小夜) July 2013 第121号

長かった調査を終え、タンザニアのキリマンジャロ州にある農村での最後の日の事。調査を手伝ってもらった労をねぎらい、村のホストファミリーとご近所の人で宴を開き、羊の焼肉を食べようということになりました。朝8時から羊を飼っているご近所さんに向かい、羊とご対面。その羊を枯れたトウモロコシの茎で追いたてながら家まで連れて来て、家の子供や近所の人たちが庭の合歓の木の下に集まる中、ホストファミリーのお父さんが慣れた手つきで解体してくれました。

解体作業を始めてから小一時間ほどたった時の事。毛皮を剥がし終わり内臓を取り出す段階で、取り出した臓物を入れたバケツの周りにみんなが集まってきました。注意深く見てみると、お父さんが羊の内臓を念入りに確かめ、腸の筋や血管を指さしながら皆になにか説明をしています。現地語の方言交じりでよく聞き取れません。何をしているのだろう?

羊を捌き終え、皆で肉を焼いてお腹がはちきれそうになるほど食べた後、軒下に座り食休みをしている時に、「さっき内臓を見ていたけど、あれ、何をしていたの?」と聞いてみました。

「今年の家運や雨量、それと死人が近々出るかどうかを占っていたんだ。」

予想外の答えに意表を突かれ、食いつくように占い方を詳しく聞いてみました。例えば雨量を占う時何を見ているかというと、胆嚢の分泌液の溜まり具合を見るそうです。胆嚢の袋が液で満ちていれば今年の雨量は良好、萎んでいれば不足。この占い結果を見て、乾燥に強い作物を植えるなどしているようです。他には、肝臓への血管の這い方で家運、腸に点在する血だまりの位置や数で死の予兆、といったことまで占えるとのことでした。

どうしてそんなに占いに詳しいのだろう、と疑問に思い尋ねました。「この村ではね、お爺さんやお婆さんのような伝統に詳しい人と暮らしたことがあれば、誰でも家畜を屠殺する時に占いをする様子を見てきているよ。その時に自然と占いの仕方を教えられ覚えていくんだ。」との答え。屠殺の場で伝わるのは占いだけはなく、様々な伝統医療の知識も同時に伝えられます。「胃の中には羊が食べた薬効植物のエキスが凝縮されているんだ」と、たらいに入れておいた胃の内容物を丸めて団子にして乾燥させたり、絞り汁を羊のスープに入れて飲んでいる様子も見られました。

こうして、家畜を屠る場を通して人々の生きる知恵や伝統が受け継がれてきたわけですが、一方でこうした在来の知識は、若い世代になるにつれ薄れてきています。その日は日曜日だったので、近くの中学校の女子も見に来ていましたが、「肉は普段から食べるけど、解体は初めて見た…。」と語っていました。しかし最初はそんな戸惑いを見せていた子供たちも、肉が焼きあがればおいしそうに頬張ります。経験とはこうして血となり肉となっていくのでしょう。

※『アジア・アフリカ地域研究情報マガジン』July 2013 第121号より転載。

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