アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻 アフリカ地域研究資料センター
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巨大な来客(泉直 亮) October 2011 第100号

「テンボだ! テンボ!! 逃げるぞ!!!」
牧夫の少年が、わたしのテントに来て叫びました。
タンザニアでの調査で、放牧キャンプに滞在していたとき、夜中の3時半ごろのことです。

キャンプの番犬がけたたましく吠えだしたので、わたしは寝ぼけた意識で、またハイエナが、うちの子牛を襲いにきたのかと思いました。しかし、ようすを見に行った少年の口からは、予想外のことば…テンボ(=ゾウ)だというのです。

にわかに目が覚め、わたしは、このあたりで漁師がゾウに殺されたという事件を思い出しました。慌ててテントを飛び出すと、闇夜には数体のうごめく大きな影。
懐中電灯で照らすと、15メートルぐらい先でしょうか、1頭が鼻を上げ、「パォーン!!!」と鳴きました。腹というか心臓に響く音です。
「明かりを消せ!襲って来るぞ!」と牧夫たちが注意しました。しかし、わたしは彼らと違って、夜目がききません。彼らは、そんなわたしを誘導してくれ、わたしたち5人は、着の身着のままでゾウから逃げ出しました。いや、ひとりの雇われ牧夫は、何も着ていませんでしたが。

タンザニアで調査をしていると、日本では経験しない、さまざまな自然の脅威に遭遇します。そんななかで、たくましく生きる人びとと暮らしていると、自分まで生きるパワーを分けてもらったような気がしてくるので、不思議です。
もちろん、そんな呑気なことばかりも言っていられません。たとえば、タンザニアやアフリカに限らず、多くの国や地域で、野生動物を保護する政策と、その害に悩む地域住民という対立が問題になっています。なかでもゾウは、よく問題にされます。

翌朝、牧夫のひとりが「昨夜は、ゾウで大変だったな」と笑いかけてきました。彼は、こう続けました。
「でも、ゾウはこの放牧地を守ってくれているんだよ。ゾウがいなくなれば、農耕民たちが耕しにきて、家畜を放牧しにくくなるから。」
なるほど、野生動物と地域住民をめぐる問題は、そう単純ではないようです。

※『アジア・アフリカ地域研究情報マガジン』October 2011 第100号より転載。

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