アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻 アフリカ地域研究資料センター
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新月からはじめる祝宴の3日間(角田さら麻)  January 2013 第115号

2012年8月17日の夕刻、インド洋に浮かぶとある島では人びとが稲田の一角に集まり、空を見上げながらとあることを今か今かと心待ちにしていました。茜色に染まった空が段々と暗みをましてゆくなか、その瞬間は訪れました。
「明けたぞ~!」
と叫びながら子どもたちはいっせいに駆けだします。ラマダーンが明けたのです。ラマダーンはイスラーム教徒がヒジュラ暦の第9月におこなう断食。稲田に集まった人びとは、断食が明けたことを示す新月を探していたのです。

この島の名は、タンザニアの沖合に浮かぶペンバ島。50万人いる島民の9割以上がイスラーム教徒のペンバ島は、断食後3日間の休日に入ります。休日、というよりもそれはむしろ3日間連続の祝宴に近く、大人たちは仕事を、子どもたちは学校を休んで祝います。休日中は、前日から準備していたご馳走であるケーキやドーナッツを食べ続けます。ふだんは島で口にすることのないお菓子を目の前にして興奮していたわたしでしたが、直径30cmのホールケーキに1ダースの卵と300g以上の砂糖が投入されていることを知っていたので、次々に差し出されるお菓子をついつい凝視してしまいました。「ダイエット」という言葉を頭に浮かばせながらも、断ることなく超高カロリーのお菓子を口へと運んだのです。

お腹をお菓子で膨らませたあとには、とびっきりのおしゃれをして村を歩き回るという、休日の目玉がまっています。女性や子どもは、一年間のなけなしの貯金で仕立てた晴れ着に身を包みます。人びとの勧めと祝宴のムードに感化され、わたしも思わずパステルブルーのワンピースを買い、子どもたちに手を引かれて村中を歩きまわりました。しかし、休日の初日は朝からの大雨であたりはぬかるみだらけ。それでも泥なぞに負けじと出掛けたわたしは、子どもたちと同様に新品の服を泥だらけにしての帰宅となりました。友人に「これでは明日の祝宴には何を着るの」と聞かれて驚きました。子どもたちは3日分のために3着の晴れ着を用意していたのです。1着しかもたなかったわたしは夜な夜な必死に泥落としをすることとなります。

このときについたぜい肉とは未だ格闘中ですが、島の雰囲気が一変するこの貴重な「休日」をともに過ごしたわたしに「君はもうペンバ島民だよ!」と声をかけてくれた島民と、パステルブルーのワンピースが待つペンバ島へ、早く帰りたいと思いをはせる日々なのです。

※『アジア・アフリカ地域研究情報マガジン』January 2013 第115号より転載。

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